反響室の中と外

反響室の中と外

Twitterまとめや書ききれなかったこと、映画の感想、日々の妄言等々。

『ミルピエ 〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』をおすすめする

 

原題:Releve: Histoire d'une creation(2015・仏)

 

 舞台芸術の中でも、バレエ、特にコンテンポラリーダンスは私にとってはかなり難しい部類に入る。自由だからだ。なにせストレートプレイやミュージカル、オペラや歌舞伎・能ともクラシックバレエとも違い当然ながら台詞もなければ原典となる物語も存在しない(ことが多い)ので、つくり手の意図を読み取るのが段違いに難しくなる。ダンサーの指先一本の動きに深遠な哲学が込められていることもあれば、観客をどこまでも「踊り」そのものの見せ方にのみ集中させたい場合もあって、なんといったらいいか、まずつくり手と自分の間で「前提の共有」ができるだろうかという不安が付きまとうのだ。基本的に決まった型も共通のことばも筋書きもない世界。それでもその手探りの芸術にどうしようもなく惹かれるのは、どの舞台にも共通する「なまものの熱」が好きだから、のひとことに尽きる。
 そんなこんなでコンテンポラリーにある意味伝統芸能よりも(双方に失礼ながら)よほど敷居の高さを感じながらもこの作品を見に行ったのは、仮にミルピエ氏の創作そのものの要旨は分からなくても(すみません、努力します…)ドキュメンタリーならその「熱」にフォーカスしてくれるものと信じ、またそうした舞台裏の熱意に触れることからコンテンポラリーダンスに近づいてみるアプローチもきっと間違いではない、自分で自分の苦手意識を増長させたくないと思ったからに過ぎず、結果的にそうしてよかったと感じている。
 題材としてのミルピエ氏の「改革」のセンセーショナルさやある意味でのスキャンダラスさに関する解説は公式他よほど事情に詳しい各位に譲るとして、ミルピエ氏以下誰もが己の役割に忠実な姿を見せ、インタビューでは飾らない姿勢で自らの意見を述べているその単純とも言える構成は、確かにただただ真摯なドキュメンタリーだった。今までもそこにありこれからも続いていく日々の中のあるタームを切り出した「ドキュメンタリー」。予告で煽られたような劇的な対立や大きな事件はない。あくまで彼らの「日常」において。
 為すべきことを為す。構成とは対照的にドキュメンタリーとはとても思えないような、ダンサーたちの、ミルピエ氏自身の、踊る姿の美しいスローモーションを見つめながら、為すべきことをいざ為す難しさと望むほうへ歩む苦しみにそっと思いを馳せる作品だった。おすすめです。

(余談ながら音楽も非常によかったです)